1945年、沖縄県伊江島で激しい攻防戦が展開される中、2人の日本兵が木の上に身を潜め、終戦を知らずに2年もの間生き延びた――そんな衝撃の実話を基にした映画『木の上の軍隊』の小中学生を対象にした試写会が、7月23日(水)、東京都豊島区立千登世橋中学校で行われ、ゲストとして本作の平一紘監督が登壇。本作を鑑賞した小中学生たちに向けて、本作の制作背景や意義、監督が込めた思いについてトークを展開した。小中学生たちからは、本作の感想や疑問・質問が殺到し、平監督がひとつひとつ真摯に答えた。

6月13日から沖縄で先行公開されると、沖縄での金土日観客動員が5週連続No.1を獲得する大ヒットとなっている本作(※)。沖縄では祖父母、父母、子どもの3世代の家族連れで鑑賞に訪れているのも特長的。
※初週の金土日3日間の週末動員がNo.1を獲得。その後も評判が評判を呼び、沖縄・スターシアターズ系の4劇場では金土日の観客動員5週連続No.1を獲得している。(劇場調べ)
今回、沖縄県伊江島(伊江村)と東京都豊島区が交流都市であることから、豊島区の小中学生を対象にした試写会が実現し、猛暑にも関わらず、120人もの小中学生やその保護者が訪れた。6月に伊江村立伊江中学校でも特別試写会を経験している平監督。東京で多くの子供たちに観てもらえることがとても楽しみだったという。上映後、生徒たちからは、本作への質問や感想の手が活発に上がっていた。

撮影の主な舞台となった巨大な1本のガジュマルの木には生徒たちも驚いたようで、「沖縄にガジュマルの木はいっぱいあると思うが、なぜこの木を選んだのか?」という質問に、「実は、ふたりの兵士が逃げ隠れできそうなガジュマルの木はそんなに無いんです。なので、撮影に使うガジュマル探しの旅をずっとしていました。最終的には、伊江島の公園で見つけたガジュマルの木にもう一本の木を合わせ、地元の造園業の方と映画の美術さんが植樹しました。今でもその公園にはそのガジュマルがあるので、いつでも逃げ込めますよ!」と優しく答えた。

他にも、「今まで観た戦争映画はフィクションが多かったので、実話を基にしている作品を見て素晴らしいなと思いました」と語る男子中学生や、「木に逃げ込んで生き抜いたという新たな実話を知れて、勉強になりました」と元気に答える女子中学生、「僕は力が強くないし2年も隠れている自信がないです」と素直に自分ごととして捉える男子小学生など、それぞれの年齢なりの様々な感想が寄せられた。
中でも、平監督が「今日聞いた中で一番印象に残っている感想」と語ったのは、女子中学生のひとりが「戦争が終わったら、それでみんなハッピーになれると思っていたが、そうじゃなかった」と感想を述べたこと。「戦争は、起きてしまっただけで良くないことなんだということに、この映画を観て気付き、そのような感想を持ってくれたというのが嬉しかったです。戦争がいかに悲惨なものなのかということは、今まで語り尽くされてきたけれど、この作品が知るきっかけになって嬉しいと、今日改めて感じました」と感慨深げだった。
Q&Aが終わると、伊江島で生まれ育ったシンガーソングライターで、本作の主題歌を歌うAnlyから生徒たちに向けたメッセージ映像が上映された。

「私のこれまでのキャリアは『木の上の軍隊』の主題歌を書くという使命に繋がっていたのだと思う」と、並々ならぬ想いで主題歌を書き下ろしたAnly。
「私は平和な伊江島で生まれ育ったのですが、この映画に関わるということで、私自身も“戦争のときはどんな気持ちだったのか”“どんな大変なことがあったのか”など色々なことを学びました。主題歌のタイトル『ニヌファブシ』というのは、沖縄の言葉で『北極星』という意味です。一年中、空に輝き続ける星のように、平和への想いを、私も揺るがない気持ちで、そして皆さんも揺るがない気持ちで心に持ってほしいという想いを込めてタイトルにしました。皆さんもこの映画を通して、“自分にとっての平和って何だろう”ということを考えてもらえたらと思います」と、撮影で使用された伊江島の大きなガジュマルの木の前から、熱いメッセージを寄せた。
平監督は以前インタビューで、「小学生の頃、おじいやおばあが学校に来て、戦争当時の話をしてくれたことを思い出しました。涙ながらに語ってくれたあの証言は、殺人事件の被害者であり、さらに言うなら加害者かもしれない。そういう人たちが、死ぬ気で勇気を振り絞って話してくれていたんだということに、改めて気づかされました」と語っていた。平監督は35歳と若く、戦争体験者ではないけれど、本作を鑑賞した小中学生たちにとって、その平監督と話したこの時間はきっと一生記憶に残るはず。イベントを終えた平監督も「戦争の語り部はいずれ居なくなってしまう。でも映画はいろいろな形で子供たちの目や耳に届くことができる。映画としてたくさんの人の心に残るものが作れるとすれば、語り部がこの先居なくなってしまっても、映画として語り継ぐことができる」と、本イベントを通して、監督自身も学んだ貴重な機会となったようだ。
7月25日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー